母親が豆まきをオシャレに決め込んでいた
母親が節分に彩りを加えようとしていた。
彩りと言っても特別カラフルに着色した落花生を作り上げていたわけではなく、豆の品種自体をオシャレにする方向である。特別ちらし寿司を作ったりしたわけでもない。
上機嫌でビニール袋から取り出したその豆は、あまりに個数が少なく、絶対にそのまま食べた方が良いだろうという感想に至り、更には本当に豆をぶん投げる気があるのかやや気になった。
ピスタチオ。
女子高生たちが些か喜びそうである。
狂ったように大量のピスタチオを購入して帰宅した母親は、まるでトレンドの波を乗りこなすイマドキJKの顔つきだった。
その豆は、投げる時に殻を剥くのか?
我が家のオシャレガールは、もはやそんなことを気にしてもいなかった。
「鬼が死ねば良いのよ」
パンチラインである。
方向を定めて恵方巻を食べるでもなく、年の数だけ豆を食べるわけでもなく、ただ殺戮の限りを尽くそうとしている。これは母親というよりも暴君である。
「殻が硬い方が威力が高い」
それなら殻付きのマカダミアナッツを買ってくるべきでは? という私の言葉は無情にも虚空に響き渡り、母親はピスタチオを手に持ち投げ始めた。
「鬼は外」
「ほら、アンタも投げなさい」
「鬼は外」
「鬼は外」
「鬼は外」
福の神を招き入れるという概念が無いんかお前は
日頃の鬱憤を込めて淡々と外に向かって豆を投げまくるその姿こそが、もはや鬼である。
狂ったように豆を投げまくった直後、鬼がこちらに振り向いて衝撃の一言を放つ。
「ちょっと、アンタ、鬼やりなさいよ」
恐怖
絶望
閉塞感
なんということだろう。
生みの親に、まさか鬼役を任されるとは思わなかった。選手交代である。これでは本当にどちらが鬼なのか分からない。
「鬼は外」
ピスタチオが
普通に痛い
ピスタチオは強い、というか投げる力が強い、というかそのフォームはなんですか?
そうして外へと追い出された私は、コメダ珈琲で豆菓子をいただいております。
皆さん、良い立春を。かしこ